2024年3月6日水曜日

札幌冬季五輪招致への最終討論

日本共産党札幌市議会議員団を代表し、「北海道・札幌2030オリンピックパラリンピック冬季競技大会」の招致活動と停止について総括して討論を行います。

2014年に上田文雄前市長が、2026年の冬季五輪の開催都市として立候補を表明し、秋元克広市長になった2018年9月、2026年招致活動の終了とあわせ、2030年招致を表明し、招致活動・機運醸成活動を本格的に進めました。

我が党は、「世界の平和と友好、人間の尊厳」を掲げるオリンピックの精神に賛同するとともに、開催都市となる地元市民の圧倒的賛同がなければ前に進むことはできないと考え、議会での質問を重ねてきました。

本市は約10年間の招致活動を進めましたが、IOCが、2023年11月29日に、2030年、34年の候補地と、2038年はスイスと対話することを発表したことで、本市は事実上、招致を断念し、12月19日に「招致活動を停止する」こととなりました。

東京大会の一連の汚職事件はもちろんのこと、我が党が指摘してきた通り、市民との十分な合意がないままに招致しようとしたことが軋轢を生み、市民の反対世論が広がり、このような結果となったと考えます。


2019年、本市は「招致レースのスタート」だと位置づけ、取り組みを本格化させましたが、まだ市民の意向を確認していない段階でJOCと話を進めたため、2020年1月に、札幌市を2030年の国内候補地と決定したことに対し、「まだ賛否も聞かれていないのに、なぜ候補地となるのか」と、市民の中に疑問や不信が広がりました。この時期のマスコミの世論調査でも、賛否は半々であったのに、決定が先になったこの順序は、明らかに逆だったのではないでしょうか。

ようやく2022年3月に、本市は1万人の無作為抽出による「意向調査」を実施しましたが、その手法にも、結果による判断にも、大きな過ちがありました。

送られた封筒には、調査用紙のほか、大会概要案とQ&Aが同封され、「大会概要案およびQ&Aを」読んだうえでの回答が求められました。大会招致は「市民生活に好影響を与える」、「大幅に経費が増えることはありません」、「さらなる経済効果も見込まれます」など、不確定なメリットばかりが強調されたQ&Aを読んでから回答に入るよう促されたのです。調査用紙は、8項目のうちの5つが「大会概要を理解したか、できなかったか」に丸をつけさせるもので、最後の8問目でようやく賛成か反対かを聞く、という設計になっていました。

また、旭川・帯広など道内6都市の調査は、映画館来場者への街頭調査で、協力者にはオリジナルバッヂを提供する、という物品を使う手法でした。

さらには、調査実施時期は、北京オリンピックの直後で、選手たちの活躍に心を躍らせた心境に付け込むタイミングで、統計学の専門家から、調査票の設計について「賛成方向に誘導されている可能性がないとは言えない」との指摘を受けるものでした。

不確定な要素で招致はバラ色であるかのように描き、市民を賛成に誘導するような意向調査に840万円もかけて実施したことに対し、強い反省を求めるものです。

さらに、この意向調査の結果は、賛成52.2%、反対38.2%とほぼ拮抗し、「市民からの多くの支持を得た」とは言い難いものであり、この段階で、機運醸成活動をやめ、38.2%となった反対意見をもつ市民と対話する必要がありましたが、市長は、「招致の是非の決定ではなく、今後の進め方の参考とする」という態度に終始しました。

それを受けた本市が、市民理解が不足している、と、さらなる理解促進活動を行おうとしたことから、我が党は、2022年5月、第2回定例市議会で、「2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会招致に関する住民投票条例案」を、市民ネットワーク北海道と共同で提出したのです。

市長が、「オリパラ招致は、まちの将来に関わる重要な取り組みと認識」している、と答弁したことは、本市が持つ「札幌市自治基本条例」第22条にある、「住民投票を実施」できる根拠であります。大会招致は、市政の重要な事項であり、賛否が拮抗した以上、間接民主主義を補完する住民投票を行い、オリパラ招致に賛成か反対か、市民の意思を直接確認する必要があると考え、提案したものでした。

これに対し、自由民主党会派からは、「議会での招致決議は議会として総合的な判断であり、必ずしも住民投票が優れているとは言えない」、民主市民連合からは、「今やらなければならないのは市民理解を広げる機運醸成であり、住民投票ではない」、公明党会派からは、「関係者が一丸となって取り組むべき時に、賛否のみを問う住民投票は市民を分断する」等、市民不在のまま招致を推進する本市と同調する理由による反対の表明があり、残念ながら可決に至りませんでした。

その後の8月末、東京2020大会の談合・汚職など一連の不祥事が発覚し、本市は、まだ事件の全容もわからないうちから早々に「クリーン宣言」を行い大会概要案を更新しましたが、事態が次々と明るみになるなかで、招致反対の市民世論はさらに高まりました。また12月、3月には、市民から議会に対し、住民投票の実施を求める趣旨での陳情や請願が出されました。

こうした中で、市長選目前の12月20日、本市は機運醸成活動を休止しましたが、翌年4月の市長選の結果は、市長が「冬季オリンピック招致に対する懸念なども含まれている」と答弁されたように、札幌市政への不信を表すものとなり、9月には、市民による住民投票条例の直接請求署名運動が開始されました。

また、本市が行ったオープンハウスや説明会で、参加した市民から「やめてほしい」「大会予算が増加するのではないか」など、寄せられた意見1086件のうち628件が不安や懸念の声で占める、という状況になったのです。

大会招致にかかった経費は、2014年度から支消が始まり、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年度は1億1500万円、2021年度3億9600万円、2022年度3億円と、10年間で12億2100万円にもなりました。

市民から多くの支持を得た、との確認が一切ないままに、12億円を超える大会招致経費を使ってしまったことは、重大な問題ではないでしょうか。

議会も問われています。我が党と市民ネットワーク北海道が反対するとわかっていて、オリパラ招致の決議を多数決で決定しました。それにより、本市が「議会でも招致決議をいただいた」と後ろ盾にすることとなってしまいました。また、市民から出された陳情や請願は、丁寧な議論を重ねる必要があるものですが、住民投票の実施を求めた請願に対しては、わずか1回の審議だけで多数決により否決しました。市政の重要な事項であるからこそ、数の力で押し切ってはなりませんでした。

このたびの検証・総括は、市民の意思を確認しないまま進んでしまった過ちについて書かれておりません。総括にも一般市民は加われず、本市の招致活動は、最初から最後まで、徹頭徹尾、市民不在のままのものでした。間違った総括は、次の招致活動をも間違えることになります。

今後、本市が冬季オリンピック・パラリンピックを招致しようとするならば、まず、本市の施策をさらに充実させて、市民のウインタースポーツ実施率2019年度10.1%と下がっている現状を大幅に引き上げ、スポーツ愛好家を増やすことです。そして、招致について市民の賛否が分かれそうなときには、自治基本条例に則り、住民投票によって意思を確認し、多くの市民からの賛同を明確に得てから招致活動に進むという、IOCが求める確かな住民合意が必要です。

このことを明記せずに2030年招致活動の総括をすれば、再び同じ過ちを繰り返してしまうことを肝に銘じ、あらためて、市民の意思を確認することの欠如、多数の賛同を得たのちに進むことの欠如を検証するよう求め、討論を終わります。